アストロノーツ

ほんとうの話をしよう。ほんとうのわたしのことを話そう。どうしても届いてほしいひとがいる。

わたしは、この「わたしは」とまで書いて手が止まるような人間で、ほんと言うと、自分がどんな人間かも把握しきれてない。だけど自分をコントロールすることにおいては異常なまでに長けていて、自分自身のことを分かってるようで分かってなくて分かってるという、とても厄介な生き物で、醜悪で、すぐひとを疑ってしまって、後ろ向きで、卑屈で、何だかとにかく面倒臭い人間で、でもそれを悟られたくないからいつもヘラヘラしてるような、よく分からん人間です。

元恋人に言われたことがある。
「何考えてるのか分からない」「気持ち悪い」「得体が知れない」「私生活のこと全然話さないからどんな人かが分からない」「聞けば答えてくれるけど、でもそれってすごい浅いところで、ほんとの黒澤ちゃんには近付けてない気がする」みたいなことを。

わたしが話さないのは諦めてるから。相互理解なんて不可能だって諦めるしか、わたしが生きてきた中では、そうでしか自分を守る術がなかった。

医者にもそう言われた。わたしはハッキリ聞いた、「先生、聞いてもいいですか? わたしは此処で何を話せばいいんですか?」と。先生は「最近あったことを話してください。しんどいこととか、楽しいこと、何でもいいんですよ。時間は限られてますけどね、その中で話してくれたらいいんです」と言った。

「自分のことを話さない、誰にも助けを求めない黒澤さんは、きっとそれで自分のことを守ってきたんです。此処はその練習をする場所でもあります。黒澤さんが自分のことを話す練習をする場所なんです」

先生が何を言っているのか正直分からなかったけど、一つ分かったことがある。専門家がそう判断するほど、わたしはひとにものを話さない。表面上のことですら最低限に。

わたしの病気は呪いだと思った。
自分のことを話さない呪い。勝手にひとを疑ってかかって裏切られれば安心する呪い。助けを求められない呪い。

嘘をつきたくないひとがいたら、わたしは途端に怖くなってしまう。それでも向き合いたいとおもうひとがいる。

わたしの汚いところ、嫌なところ、誰も信じられないところ。許されなくていい、ただ聞いてほしいとおもった。わたしっていう人間が生きてきた道と、その過程で生まれた自分を縛り付ける沢山のルールを、許されるなら、もしそれを受け止めてくれるなら、壊したいとおもった。

届くといいな、君にいつか